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2023.03.03
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『リチャード三世 馬とホモサケル』 インタビュー②

演出を担当した笠井友仁に、作品やくるみざわしんとの共同創作について、インタビューしました。
(くるみざわしんへのインタビューはこちらからお読みいただけます)

―くるみざわさんからリチャード三世をとりあげると聞いた時、どのように感じましたか?

笠井:2021年11月にアイホールで、くるみざわしん作『マクベス 釜と剣』を上演し、エイチエムピー・シアターカンパニーの<シェイクスピアシリーズ>が始まったわけですが、この企画がスタートしたのは、2020年10月頃です。新型コロナウィルス感染拡大の影響で劇場や演劇関係者が大きな打撃を受けており、そのダメージは深刻なものですから、今後、再び多くの方に劇場に足を運んで頂くため、「演劇」の魅力がより多くつまっており、誰もが一度は耳にしたことがある演目を題材に創作しようと考えていました。
そんなとき、書店を訪れた際、『暴君-シェイクスピアの政治学』(スティーブン・グリーンブラット著、河合祥一郎訳、2020年9月19日、岩波書店)を目にしました。ちょうど、自宅時間が増えて、政治とは何か、権力者とは何か、考える機会が増えたので興味深く読みました。その後、この本の影響を受けて、まずは「暴君」という切り口でシェイクスピア作品をテーマにしようと、くるみざわさんと話しました。
題材を選ぶ際、関心がある作品をくるみざわさんに尋ねています。『リチャード三世』もくるみざわさんに選んでもらいました。ただ、シェイクスピア作品の中から「暴君」をテーマにし、かつより多くの観客が知っている演目となれば、『マクベス』に続いて『リチャード三世』を選ぶことはわかっていたように思います。
なので、すぐに「どのようなリチャード三世にするのか?」という話題を話し合ったと思います。すると、くるみざわさんから「リチャード三世の身体的特徴は描きたくない」と聴き、最初は驚きました。それがシェイクスピアの『リチャード三世』の大きな特徴だと思い込んでいたからです。ただ、そのような思い込みを取り払うことで、見えてくるリチャード三世の姿があると感じました。

『リチャード三世 馬とホモサケル』の稽古風景


―戯曲を最初に読んだときの第一印象はどのようなものでしたか?

笠井:くるみざわさんがプロットをつくり、それに基づいて出演を依頼し、その後、戯曲『リチャード三世 馬とホモサケル』ができあがるわけですが、読んでみて、今回の戯曲はおもしろいなと思いました。例えば、第一幕のリチャード三世とアンの場面など、原作が持っている魅力を活かしながら進んでいき、最後にはシェイクスピアとは全く異なる作品になっていました。原作の「馬」を連呼する名台詞(“A Horse, a Horse, my Kingdome for a Horse.”)も、全く異なる意味になっていました。
ところが「暴君」としてのリチャード三世は原作と同じように描けている。これには驚きました。また、原作にも登場する「市民」が、『リチャード三世 馬とホモサケル』ではかなり大きく引き伸ばされていて重要な部分を担っている。シェイクスピア作品の魅力とくるみざわさんの作風が見事に混じり合っていました。

―くるみざわさんとHMPとの共同創作は、2009年の『ユートピア』からはじまり、2015年からスタートした現代日本演劇のルーツシリーズでは鶴屋南北の作品や忠臣蔵三部作をやってきました。くるみざわ作品の魅力や共同創作に関して面白いところはどんなところでしょうか。また、その魅力や面白さが今回のリチャード三世ではどのように反映されていると感じていますか。

笠井:くるみざわさんとは、2009年の『ユートピア(くるみざわしん作、笠井友仁演出、アイホール)』から共同で創作しています。その後、海外戯曲や日本の古典戯曲を上演する際、上演台本の作成に協力してもらいました。2015年にウイングフィールドで、鶴屋南北の『桜姫東文章』を題材にした、くるみざわしん作『桜姫―歌ヒ鳴ク雉ノ行方』を上演しました。ここから、原作を活かしながら、くるみざわさんのアイディアが多くつまったオリジナル作品を上演する機会が増えていったように思います。振り返ってみると2015年までに海外戯曲や古典戯曲を、少なくとも4、5本、一緒にやりました。いずれも作風が異なる戯曲ばかりだったので、上演台本をつくる経験が現在の共同創作に活かされているように思います。その経験が『リチャード三世 馬とホモサケル』に具体的にどう活かされているか、と問われると、わたし自身にはわかりません。海外戯曲も、古典戯曲も、上演しようとすると課題が多く見つかります。それらを話し合っていると、自然と、アイディアを生み出す力がついていったように思います。

『桜姫―歌ヒ鳴ク雉ノ行方』(2015年) 撮影=興梠友香


―エイチエムピー版リチャード三世の見どころやポイントを教えてください。

笠井:見どころは、まずはリチャード三世の変化とその行動です。むちゃくちゃなキャラクターですが、魅力的です。そこは原作と同じように見ることができますから、ぜひ楽しみにして頂きたいと思います。
そして、これも原作同様にアン、マーガレット、エリザベス、ヨーク夫人の女性たちのドラマも本当に見どころがあります。
また、原作と異なる、市民たちの活躍や「馬」を連呼する名台詞がどう変わっているのか、ぜひ上演を観て欲しいです。
演出としては、これらの戯曲の特徴を活かしながら、やはりシンプルに描くことを心がけました。特に近鉄アート館は「囲み舞台」ですから、三方の観客席に囲まれた舞台の中で俳優が語るドラマを楽しんで欲しいと思います。
上演時間は、えーと、3時間半ですか! そうですね。2回休憩を設けて、約1時間ずつ観て頂きます。長い上演時間ですが、見どころは多いと思います。笑える場面もありますね。

―最後にお客様に向けてメッセージをお願いします。

笠井:『マクベス 釜と剣』に続く、エイチエムピー・シアターカンパニーの<シェイクスピアシリーズ>第二作目です。上演時間が長く、上演回数が2回になっています。観ることができる機会は多くありませんが、ぜひお時間を調整して頂き、足を運んで頂けたら嬉しいです。 

―ありがとうございました。

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