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2022.03.10
レポート

現代日本演劇のルーツシリーズ講座編②「古典音楽について学んでみよう!」 レクチャーまとめ

3月12日~13日に上演する『堀川、波のつづみ』の前に、古典の音楽に着目し、古典芸能の魅力や楽しみ方をお伝えするレクチャーと実演を交えた講座を、2021年10月~12月に計3回開催しました。第2回目にとりあげたのは、BGM や効果音で舞台の様々な局面を盛り上げるために欠かせないお囃子。大阪音楽大学で楽器学などを教えられている長江浩子さんによるレクチャーをしていただきました。

講座概要
2021年11月28日(日)15:30~17:00@布施PEベース
・レクチャー:「お囃子のルーツ お芝居を盛り上げるために欠かせないお囃子の魅力」
講師:長江浩子(大阪音楽大学講師)
・実演:お囃子を編成する楽器の紹介を交えながら、演奏を披露。
出演:望月太美一希、常磐津三都貴
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レクチャー:「お囃子のルーツ
お芝居を盛り上げるために欠かせないお囃子の魅力」
講師:長江浩子(大阪音楽大学講師)

長江:今日は囃子について概説をさせていただいて、さらには日本の歌舞伎や文楽で使います、お囃子の楽器の細かい説明をさせていただきたいと思います。

「囃子」―本体のものを引き立てるという意味合い

「囃子」の元の字は、「栄やす」が語源で、本体のものを引き立てるという意味合いがあるということでございます。この囃子というものが多用されるのは、世界でも日本が一番多いのではないかと。例えば西洋のオーケストラの演奏を聴いて、観客席から声を飛ばすとかはあまりありませんし、日本は囃子ということをすごく重んじている文化を持っている民族であるということがいえると思います。

3つの「はやし」―「囃子詞」、「囃子」、「手拍子」

「囃子」の中には、まず言葉で囃す「囃子詞」、そして楽器を使う「囃子」、その間に体を使う「手拍子」があります。その囃子の原始的な形態は、まず言葉で囃すということのようです。

その材料として、山形県の民謡である花笠音頭があります。この歌詞は「目出度目出度の若松様よ 枝も栄えて葉も茂る」というものですけれども、これを歌ってみると、「目出度目出度の若松様よ 枝も…(ウンウン)」ここで「チョイチョイ」って囃子詞がはいるんですね。まず、囃子のないバージョンでやってみます。「(チョンチョン)…栄えて葉も茂る…(チョンチョンチョン)」ここで「ハァ ヤッショーマカショ」というのが入るようになります。では、まずみなさん、「目出度目出度の若松様よ 枝も」の後に「チョイチョイ」って言っていただけますでしょうか、みなさん。「チョイチョイ」です。そのね、「栄えて葉も茂る」の後はですね「ハァ ヤッショーマカショ」というわけです。ではちょっとやってみます。(皆で囃す)「目出度目出度の若松様よ 枝も」「チョイチョイ」「栄えて葉も茂る」「ハァ ヤッショーマカショ」これだけでも、歌を歌っているだけの時よりは楽しい気分になりますよね。囃子ってこんなものなんです。内容がとても楽しいものになったり奥深いものになったりすると。そういう意味で囃子って「囃す」ってことがあります。それは、今は掛け声や手拍子、体でできるものでやってたんですけれども、もっと歌舞伎になりますと、楽器でやろうということになっていきます。なので、やっぱり歌舞伎もただ役者さんが前に出て三味線音楽があるだけではなくて、色々な楽器でその情景を表現したりすることによって、ドラマチックなものになっていくということが、今の体験でわかっていただいたと思います。私たちがさっきやったのは口と手ですが、こんなに沢山の楽器で、その場の雰囲気を表現する楽器があります。

御簾内音楽―情景を説明する音楽

どんなところでやるかというと、御簾内という場所です。黒い御簾がかかっているので、観客席から中は見えないのですが、中に座って、色々な楽器を置いて、そして御簾の中からは舞台上がよく見えて、役者の動きに合わせて色々な楽器を叩いたり吹いたりする。というのが御簾内音楽と言われています。それが一番、囃子というものの効果をよく表現しているものであると思います。

御簾内でやる音楽はどういうことを表現するか。歌舞伎などは、舞台の上に三味線や浄瑠璃の方が並んでいます。役割分担ができています。舞台上で三味線を弾いたり浄瑠璃を語ったり唄を唄ったりする方々は、そのストーリーを説明したり登場人物の台詞をとったり、歌舞伎の場合は役者さんが台詞を言いますけれども、文楽の場合でしたらすべてを太夫さんがやると。ですから舞台上に出ている人はストーリーを表現している、どんな筋書きなのかということが音楽として演奏されるわけです。

御簾の人たちは何をやるのかというと、どういう情景であるのか。お祭りの情景であったら、祭囃子であったり、虫が鳴いている、川が流れている、波が立っているということを、この楽器でやるわけです。こういう楽器で情景を表現するものを演奏するのは、日本人独特の感性であると。西洋音楽のオーケストラでは、例えばワーグナーなんかがですね、この情景にはこの旋律をつけるというやり方はあるのですが、音色で様々な情景を表現していくっていうのは日本人独特の音楽の感性であるということが言えます。

囃子の楽器―大陸からの影響

では、どんな楽器があるのかを見ていきたいと思います。打楽器が多いですね。その中にも、皮のついた楽器と、木を打ち鳴らすような楽器、鈴みたいに振り鳴らす楽器であったり、金属を打ち鳴らす楽器であったり、木魚のように木を打つ、それから鐘を叩く、吊り下げられた鐘を叩くという風な、色々な形の楽器があります。素材からみると、皮を使った太鼓群、金属を使った楽器、木を使った楽器というように、色んな素材のものがあることに気づきます。

細かく見ていきますと、こういったものは元々日本にあったものなのかという疑問がチラチラと頭に浮かんでくると思いますが、元々日本にあった楽器っていうのは、鈴、お琴、笛、太鼓といった楽器です。そのような楽器しかなかったのに、平安時代に遣唐使によって、大陸から沢山の文物が輸入されてきた時代があります。

講座風景

インドネシア、中国、インド……

この楽器、インドネシアのガムラン音楽で使うゴングです。ゴング類と同じように、インドネシアは、すごい青銅器の楽器が多いんですが、例えば祇園祭で使う、コンコンチキチキコンチキチキと鳴らす、鉦鼓という鐘も、インドネシアのガムラン音楽で使っていたものを日本に取り込んだのではないかと。そして、シンバルみたいな楽器。中国によくありますよね。例えば足につけて踊る、インドの舞踊などでは、こういうのを足につけて踊ることもあります。

このようにみていくと、インド、インドネシア、中国、そしてさらにはこの乾いた太鼓は西アジアというように、これらがシルクロードを経由して日本に入ってきて、それが残っている。その残っているというところが重要だと思います。

日本は、一番、東の端なのですが、文化辺境論というのを唱えた人がいて、端の方ほどモノが残る。日本には、中国や東南アジア、朝鮮半島にもともとあったモノにも関わらず、残ってないようなモノが日本には沢山残っている。それが歌舞伎や文楽のお囃子に使われている。

「鋲打ち太鼓」と「締太鼓」

なぜこんなに沢山の打楽器を使うのだということですが、日本人は、音色にすごく敏感なんです。音色の違いというものを音楽に取り込んでいる民族というのは、少ないのではないかと思います。

囃子の代表的な楽器である「鼓」と呼ばれる、太鼓類の説明をいたします。紐で締められている太鼓と、鋲で打たれている太鼓と、2種類あります。鋲で打たれている太鼓を鋲打ち太鼓と言い、紐で締めるものを締太鼓と言います。鋲打ちの太鼓は、張力を後で調整することができないので、足で皮を踏んで、ちょうどいいところで鋲を打って仕上げていく。後々、締太鼓のように張力を調弦することはできないけれども、その代わり強度は強い。よって、大きな太鼓は、この鋲打ち太鼓として使われます。この鋲打ちのものは、締太鼓とは違った、独特の音色を持っている。音色的に考えても、締太鼓の方の太鼓と鋲打ち太鼓とでは音色が違うわけです。

この紐で縛るタイプの太鼓は、元々日本にあったわけではなく、平安時代に雅楽の太鼓としてわたってきた鞨鼓という太鼓です。鞨鼓は、華やかな模様がしてあり、紐で縛っていますがただ縛っているだけです。平安時代の遣唐使が廃止されて以降、それを日本的にどんどん変えていき、例えば、小鼓のように、手で張力を調整することによって、音色を変えていったりとか、日本独特の演奏方法を編み出したり、日本独特の色にしたりしていく。

鋲打ち太鼓、雅楽の太鼓です。楽太鼓というものに鋲で打ってある太鼓ですが、雅楽と一緒に入ってきたのが、同じく日本的に替えられて、現在の形になっています。日本には今日、ここにある大きさのモノから、すごい大きなモノまであると。大きさによって独特の音色を楽しんでいます。

左端の太鼓が鋲打ち太鼓。その他は絞太鼓。

日本の独自性―ルーツの違う楽器が一緒に演奏する点

日本の楽器は、分解させてコンパクトになるものが多い。小鼓も大鼓も分解でき、そのままでは置いときません。鼓の筒や三味線の胴の内側に掘られたジグザグ模様を綾杉と言いますが、細かい切れ込みを細工することによって、音に深みを出しています。

乾いた「カーン」という音が出る大鼓と、「ポンポン」という音が鳴る小鼓ですが、この音色の違いというのは、同じ地域から入ってきたものではないことが当然考えられるわけです。この湿った太鼓の方は、湿った地域に住んでいる南アジア、東南アジアの太鼓と似て、やはり湿った音がすると。大鼓のように、乾いた音の楽器というのは西アジアの方から伝来したのではないかということがいわれております。このように歌舞伎のお囃子の黒御簾の楽器もそうですが、ルーツの違う楽器が1つのパーカッションアンサンブルとして、一緒に演奏します。

日本人は音色や余韻に対して敏感でした。現代社会ではなかなか微妙な音色に耳を傾けるという機会がないかと思いますが、日本の伝統芸能には、音色を活かした音楽がいっぱい用いられている。その代表的なものが囃子ですが、三味線の音や、他の日本伝統音楽も非常に細かい音色、余韻に注意を払って音楽を表現しているということを頭に留めていただいて、歌舞伎や文楽の音楽をご鑑賞いただければと思います。どうもありがとうございました。

大太鼓による「波の音」の実演

―講演後のクロストークでは、鼓で様々な「波の音」を表現していただきました―

髙安:西さんが書いてくださった『堀川、波のつづみ』は、ちょっとした出来事が大きな波紋を呼んで、最後は生死に関わることになっていくという物語を書いてくださっていて、音の波紋っていうのを、音で私は感じたいなと思いまして、生の音で舞台で聴いてみたい、せっかくなので向平さんに太鼓を使って、波の音の違いを実演してほしいとお願いをしました。

向平:ちょっとした打ち違いで、波や水、風といった情景描写を表現しており、この大太鼓は欠かせない存在です。「波音」というのが古典の手法にありまして、実演してみます。

(実演)

ズドンドンっというのが、波頭でザパーンと波が打ち寄せて、そこからまた遠くから波がやってきてザパーンという表現になります。これの繰り返しですが、人間が太鼓を打つので、打ち方によって大きさを変えることができます。このような古典の表現を作品に入れていけたらいいなと思っていて、観に来てくださる方は、「あ、これが波音なんだ」っていうのをインプットしていただけたら。髙安さんが、仰っていた波紋というのも、作品の登場人物であるお種の心の内というのをこの大太鼓でも表現できたらいいなと思っております。

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