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2022.03.11
レポート

現代日本演劇のルーツシリーズ講座編③「古典音楽について学んでみよう!」 レクチャーまとめ

3月12日~13日に上演する『堀川、波のつづみ』の前に、古典の音楽に着目し、古典芸能の魅力や楽しみ方をお伝えするレクチャーと実演を交えた講座を、2021年10月~12月に計3回開催しました。最終回である第3回目は、現代演劇と古典芸能のコラボレーションの可能性について、講座を開催しました。元『上方芸能』編集長の広瀬依子さんによるレクチャーをしていただきました。

講座概要
2021年12月26日(日)15:30~17:00@布施PEベース
・レクチャー:「現代演劇と古典芸能のコラボレーションの可能性」
講師:広瀬依子(追手門学院大学国際教養学部講師)
・実演:『堀川波鼓』をもとに西史夏が書き下ろした新作『堀川、波のつづみ』より、一部を抜粋して初披露。
出演:常磐津美佐希(浄瑠璃)、常磐津三都貴(三味線)
詳細はこちら

レクチャー:「現代演劇と古典芸能のコラボレーションの可能性」
講師:広瀬依子(追手門学院大学国際教養学部講師)

広瀬:本日のタイトルは「現代演劇と古典芸能のコラボレーションの可能性」です。

これは永遠の課題ではないかという気がしております。

現代演劇の方と古典芸能の方がご一緒に何か作られるときに、必ずみなさんがぶつかる課題があるんですね。古典芸能には「型」という、決まった方式・やり方があります。その「型」と「理論」のすり合わせというところで苦労されます。というのは、古典芸能というのは型から入ることが多く、現代演劇の場合は理論から入るのが割と多いようにお見受けしますので、その違いを埋めるために試行錯誤されるのでしょう。

「型」と「理論」のすりあわせ

例えば古典芸能には、その家に生まれた方がいますよね。

小さい時に、師匠であるお父さんやおじいさんに「こう言うからこうやって、手はこう上げるんやで」と、言われた通りに、子どもですから意味はわからずにお稽古をしていくわけです。

ある狂言師の方にインタビューした時に仰ってました。子どもの頃は何の疑問も抱かずに言われた通りにその型をやっているけれど、高校生ぐらいになると疑問が出てくる。ここで手を上げるとか足を出すというのは、どういう意味があるのか、理論が欲しくなる。そこで、なぜこういう体の動かし方をしなければならないのかと師匠に聞いたそうです。「ここはどういう気持ちの流れでこの型になってるんですか」と。すると「昔からそう決まってる」という答えが返ってきたそうです。それ以上は何も教えてもらえない。大人になって理論もわかるようになり、型も身につけられたら、「そうか、こういう格好をするからこういう感情がでてくるのだ」とわかるそうです。

みなさまもご経験があると思います。悲しくなって泣き真似みたいなのをしていたら本当に悲しい気持ちになってしまったとか。そのようなことを、古典の方は行ってきているわけですね。

また、文楽の人形遣いの吉田玉助さんにインタビューした時も同じようなエピソードがありました。まだ若手の時、つい気持ちが入って人形の肩を動かしたら、あとで師匠に感叱られたそうです。よけいな動きをしてはいけないということだったのですね。

また、新国劇出身で、若獅子会という集団を主宰されている笠原章さんという方がいらっしゃいます。笠原さんが新国劇の新人の頃、台詞の読み合わせの時などに感情を入れると師匠方に叱られたそうです。「感情を入れるのは10年も20年も先のこと。今はとにかく、はっきり台詞を一言一句、お客さんに聞き取ってもらえるようにやるのが一番大事。それができないうちは感情を入れる必要はない!」と。新国劇はいわゆる剣劇、チャンバラのお芝居が人気でした。これも型ですよね。そういうところが、古典の型という特徴であるわけですね。

古典芸能での公演の並べ方の型

公演の並べ方でも一つの型にはまっているのではないでしょうか。歌舞伎も文楽も日本舞踊もそうだと思いますし、常磐津の演奏会もそうですね。何本か作品を並べて一つの公演を作ることが多いですが、はじめは気軽に見聞きできるような作品を持ってくる。そして徐々に盛り上げていって、そして最後は大きな作品もしくは華やかな作品で締めるという流れになっています。これは寄席もそうですね。そういう流れ方も、ある種、型になっているわけですよね。

現代演劇の公演との差

現代演劇は、今現在の社会とどうつながっていけるかという感覚で作品を作られたり、あるいは選ばれたりということが多いように思います。

近年、私が観ている範囲で思うのは、寛容、それから多様性ということをテーマにした作品を演じていらっしゃるところが結構多いと感じます。現代演劇の場合は理論から入りますから、さっきの型とは違うわけで、こういう場面で、こういう風な状況で、登場人物はこの台詞を言っているわけだから、そこにはこういう感情がでてくるはずである、という組み立てをして入っていかれるとお見受けしています。おそらく、考えてから動くということの方が多いのではないでしょうか。

そうやって考えてみると、古典と現代はちょっと出発点が違うわけですね。ただ、到達目標は一緒です。良い作品を作る、良いものをお客さんに観ていただくということが最終目標ですから、どこかで必ず交わる。この一緒になる地点がどこなのかというのは、それぞれのコラボレーションによっても違うでしょうし、ジャンルによっても違うのではないかと思います。

異分野の交差点、「日本物レビュー」

どこで一本の道にするかということで、これをヒントにしてみてはいかがでしょうかという表現があります。レビューです。宝塚歌劇やOSK日本歌劇団ですね。

レビューは洋物のイメージが強いと思いますが、日本物のレビューも上演しています。宝塚やOSKの出演者は、全員、日本舞踊の基礎などを学んでいます。だから日本舞踊を踊れるわけですが、さて、日本舞踊はどんな音楽で踊るか。通常であれば、日本の伝統音楽ですよね。でも宝塚やOSKの日本物のショーで一番多いのは、クラシック音楽やジャス、ラテン、ポップスといった洋楽です。日本舞踊も、オーケストラが演奏する洋楽にのって、日本舞踊を踊ることは珍しくありません。そして、レビューの表現として確立しているわけですね。これは和と洋のすり合わせになるかと思いますけれども、違うジャンルのすり合わせという意味では同じと捉えて良いのではないでしょうか。そういうことができているということは、現代と古典のすり合わせも、どこかでできるのではないかと思うんですね。

日本物レビューの振り付け方法

日本舞踊を洋楽で踊る時、どうやって振付しているのだろうと思ったことがあります。そこで、宝塚とOSKでも指導や振付、演出をされている、上方舞山村流の宗家である山村友五郎さんに聞いたことがあるんです。「洋楽の音楽で、どうやって日本物レビューをいつも振付なさってるんですか?」と。すると、「そんなに難しく考えなくていいのです。日本舞踊をカウントで振り付けるんです」と教えてくださったんですね。

伝統音楽を使う日本舞踊の場合は、歌詞に合わせて振り付けます。「あそこに月が」というと月を指すような恰好をしたり、「私」いう時は自分を指したりするわけです。けれども、レビューの日本舞踊の振り付けは、西洋のダンスがカウントで振り付けられているのと同じように行う。カウントに日本舞踊の振りが乗るようにして振り付けていくんです、と仰って謎が解けました。これも日本舞踊という型に、カウントという型を一緒に融合させたからできることだと思います。

レビューの型

また、レビューにも型のようなのものがあります。例えば、レビューには男役と娘役がいます。男役という独自の型を持った人と一緒に舞台を務めておかしくならないようにするには、やはり女の役も娘役という型にはめないといけないんですね。男役にはいろんな型があります。OSKの元男役の方にちょっとだけ私も習ったことがあります。歩く時に、近い方の足から出すのではなく、遠い方の足から向こうに向かって歩く。真っ直ぐ行くと変化がないので、クロスの法則で足をもっていく。そうすると足が長く見えるそうです。なるほど!と思いました。そういうことは先輩に教えてもらうんですかと聞いたら、見て学ぶそうです。それが必然的に男役としての型になっていく、というようなことを仰っていました。

エイチエムピー・シアターカンパニーは俳優の身体表現が特徴的ですよね。ストップモーションなども使われて、ある意味で、これは型を持っていらっしゃるのではないかと思うことがあります。ということは、そういうところですり合わせができるのではないでしょうかと。

ありがとうございました。

クロストーク 『堀川、波のつづみ』について

森田:ありがとうございました。では、3月に上演します、『堀川、波のつづみ』の創作メンバーと広瀬さんとでクロストークさせていただきたいと思います。

演出を主に担当します、髙安美帆さん、劇作を担当して頂きました、西史夏さん、常磐津の方でご参加、作曲などして頂きました、常磐津美佐希さんと常磐津三都貴さん、どうぞお願いいたします。

広瀬:原作のタイトルから少し変えて、『堀川、波のつづみ』というタイトルになっていますが、どのような思いがあるのか、西さん、お聞かせいただけますでしょうか。

西:原作は全て漢字で、『堀川波鼓』と書きます。読み仮名は同じなので、耳で聞いていると同じですが、私の方のタイトルは、『堀川、波のつづみ』としています。まず、私が長いタイトルが好きじゃないというのがありまして。タイトル長いと覚えられないし、省略されてしまうと。そして「波のつづみ」。「波」がテーマになってきます。鼓師のお話で、過去に『堀川波鼓』は昭和30年代くらいに演劇でも上演されましたし、映画にもなっています。それぞれ『夜の鼓』(映画)、『つづみの女』(演劇)というように、タイトルに「鼓」は残っているのですが、「波」が残っていることはあまりなく。映画の表現でも舞台の表現でも、「波」はあまり出てこないんですね。ただ今回の我々の取り組みでは「波」が重要なキーワードになってきます。

創作の途中で音楽についても話し合ってきたんですが、波を音楽で表現できないかとなった時に、「雨」と同様に波の表現も古典の中に沢山ある、豊富にあるということがわかりました。日本は雨量が豊富で、海と川が沢山ある、海に囲まれて河川の流れが沢山ある国だというのに気づくきっかけにもなりました。今作を通して日本がどのような国なのかということもみていけるんじゃないかなと思っています。

広瀬:ありがとうございます。パッと見た時にとても印象的な題名だったので、お聞きできて嬉しく思っております。

そして、美佐希さん、今回はどのようなところに気を配られましたでしょうか。

常磐津美佐希:今回は曲を作ってほしいとご依頼を頂きまして、三都貴さんと一緒に朝方まで何日か(笑)。先ほど広瀬先生が仰ったような、型にはまった、常磐津の曲調を参考に、常磐津らしい曲や歌詞、イメージをお聞きして作っていきました。でも、西さんが作られた戯曲の中に、詞の中にカタカナの言葉がある『須磨の浦夜曲(松風)』という曲があり、西さんの音楽のイメージもセレナーデで、西さんも髙安さんもこの曲をテーマ曲のように使っていきたいとおっしゃられて。慣れないものですが、はじめは、五線譜で作ってみたりしたんです。けれども、三味線の良さがでない。メロディーを私が歌って、三味線をその曲にあったコード進行みたいなもので弾くっていうのが、どうもおもしろくない、常磐津らしい三味線ではないなと思いまして。常磐津の良さも残しつつ、少し新しいような曲調になればいいなと創作してみました。

広瀬:今回のようにカタカナの言葉を今まで常磐津で語られるということはありましたか?

常磐津美佐希:私の師匠が『天王山のカエル』という童話を常磐津にしたことがございまして、その中で一か所だけ、その時に流行ったんだろう、「イナバウアー」っていう言葉があって。それは語ったことあります(笑)。それ以外はやっぱりカタカナというのはね、その言葉だけ浮くんじゃないかなという懸念もあったんですけど。楽屋で西さんともお話ししていて、「ここはカタカナじゃない方がいいんじゃないかなって聴いてて思いました」っていうようなお話もあったんで、やりながらもう少し古典に寄せていくのか、現代に寄せていくのかっていうのは、これからまたみなさんとご相談させていただきたいなと思っております。

広瀬:その途中の段階を見せていただけるというのは、今日は非常に貴重な機会ですよね。
髙安さん、まだこれから調整はしていかれるのでしょうが、初めて聞かれた時、どんな感じでしたか。

髙安:まず嬉しかったですね。今ようやくこういう楽曲が出来上がる時期にきたんだなと感じました。私たちは2年の時間をかけて向き合って、一緒に常磐津って何かな、現代演劇って何かなって話し合ってきましたので、その時間を思い起こしました。

広瀬:本当のオリジナルですものね。

髙安:そうなんですよ。向平さんに作っていただいて、聞かせてもらって、調整するというやり取りを何度もしました。さきほどのお話しにあったように、五線譜で弾いてみたらどうか、コード進行してみたらどうかとか、色々やりとりして、ようやく出来上がりました。
実はドレミファソラシドって、弾いてもらったこともあるんですよ。

広瀬:三味線で。

髙安:はい。でもなんか違うなってなりました。三味線を弾くときのツボともいえる、勘所で弾いてもらうと音がスポンと飛びぬけてやっぱり良いんですよね。それを軸にしながら、今回は、勘所ではない、ちょっとずれた音を入れていただきました。

広瀬:森田さんは前のべにの会の時から舞台にも出ていらして、今日の演奏は歌メインということですね。

森田:はい。べにの会がはじまった時には、私は邦楽と聞くとジャパニーズポップスしか思い浮かばなくて。私が何もわからないので、レクチャーをして、常磐津を知るような企画をしようというのが最初のべにの会だったんです。コラボレーションしませんかというお誘いをいただいたんですけれども、2年ぐらいかけてようやく創作に取り掛かれたというのが今の状態です。今日披露させていただく2曲目は、より3月の公演に向けての実験みたいな感じですね。俳優が入ってみたらどんな感じになるんだろうみたいなことを挑戦します。

広瀬:そうなのですね。ところで西さんは脚本を渡してしまったら、その後は手直しされないタイプですか?

西:私は期限があったらいつまででも直してしまうんです。ようやく期日までに納得のいく形で出せたなっていう感じですね。書き足すのは劇作家しかできませんけども、カットは演出家でもやっていただいていいかなと思っております。

広瀬:どんなふうになるのか、本当に楽しみですね。

森田:先ほど西さんからタイトルについてもあったように、波について、波紋の話をよかったら髙安さんいかがですか?

髙安:『堀川、波のつづみ』の登場人物お種は一夜限りの過ちを犯します。その過ちが波紋を広げ、最後は自死を選ぶことになる。物語の中で、波を打つ、鼓を打つ場面が何度か出てきますが、その振動が波紋のように広がっていくところに着目してみたいなと。波や波紋を常磐津やお囃子の音楽で表現して頂くことになるのではないかと思っています。

西:ちなみにタイトルの「波のつづみ」っていうのは、鼓のような波の音、もしくは波のような鼓の音という意味を込めています。

広瀬:実はそういう意味がちゃんと込められているのですね。
さて、お稽古は始まっていますか?

森田:年内に一度現代演劇の俳優が揃いまして、本を初めて俳優は読むという会がありまして、本格的には年明けからとなっております。

広瀬:常磐津さんのお稽古は?

常磐津美佐希:今日、演奏させていただく曲以外にも課題を頂戴しておりまして。

広瀬:どんな課題でしょうか。

常磐津美佐希:あと3、4曲ぐらいを作るようにと(笑)

髙安:音楽や映像などは今月を目標に作っておりまして、俳優は明日から参加する形になっています。

広瀬:3月が楽しみですね。本日はありがとうございました。

講座の中の実演の風景
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